公開日:2026年9月18日

豊田市美術館

豊田市美術館で、画家・長谷川繁の個展「長谷川 繁 ペイン天狗」が、10月24日から2027年1月24日まで開催される。長谷川にとって美術館で初の大規模個展となり、未発表作を含む初期作品から本展に向けた新作まで、約120点が並ぶ。

長谷川は1963年滋賀県生まれ。愛知県立芸術大学大学院修了後、1989年に渡独し、デュッセルドルフ芸術アカデミーでヤン・ディベッツに学んだ。92年にオランダへ移り、アムステルダムのデ・アトリエーズでのレジデンスを経て、96年まで同地で制作を続けた。作品には、ナスやキュウリ、バナナ、魚といった静物画の定番のモチーフが繰り返し登場し、ドレープや椅子の脚など西洋絵画に由来する要素も、意味を剥がされた「かたち」として画面を組み立てる部品となる。限られた要素でつねに違う絵を描こうとするこの試みは行き詰まりも経験し、2013年に作品の発表を休止。そのあいだも制作は続き、2019年の個展で発表を再開して以降、新作を精力的に発表している。

本展は、長谷川の長年の制作を新旧織り交ぜて紹介し、そこに通底する徹底した意志と軽やかな展開を明らかにするものだ。古今東西の作品を見ることに徹してきた長谷川のまなざしと、幼少期からの生活のなかで育まれた独自の感受性にも光を当て、同館のコレクションや長谷川の蒐集品とあわせて構成した一室も設けられる。

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画業の出発点となるのは、約4年間のドイツ留学期だ。日本人である自分が、西洋由来の「絵画」を描くことの困難に直面し、千本ノックのように絵を描き続ける日々を送る。石ころを積んだような、あるいは石ころが崩れ落ちたような暗さを湛えたこの時期の絵画は、あたかも賽の河原、シジュフォスの神話がそのまま形をとったようにも見える。

こうした日々を経て、長谷川が自身の絵画をつかみ始めたのは、1992年に移ったオランダでのことだった。生姜をモチーフにした3mを超える絵画は、現在まで続くスタイルの起点と言える。本展では、オランダ時代の作品は未公開作品に加え、山口県立美術館の所蔵作品も一堂に会し、その前後の飛躍的な展開を追うことができる。

絵画そのものだけでなく、作品を展示する空間もまた問いの対象だった。西洋の模倣、まがいものの文化に囲まれて育ったと語る長谷川には、キッチュな壁紙に覆われた部屋こそ自作にふさわしい場所に感じられるという。本展の一室では、長谷川がデザインしたオリジナルの壁紙を背に、作品が壁一面に縦横に掛けられる。

一方、現在の長谷川を示すのが、本展に向けて制作された大小の新作だ。なかでも、およそ30年ぶりに手がけた3メートルを超える大作は、新たなモチーフを取り入れ、作風のさらなる変化をうかがわせる。

こうした制作を支えてきたのは、古今東西の絵画を見続けてきた長谷川の眼でもある。展示室5では、ルネ・マグリット、ウィリアム・モリス、会田誠ら、長谷川自身が選んだ同館の所蔵作品と長谷川作品を並べる。あわせて、高尚な芸術とは別に、幼少期からの生活のなかで育まれた感受性にも焦点を当て、雑多な蒐集品やドローイングをガラスケースに収めて紹介する。

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