公開日:2026年10月9日

森に霊感を得る画家、福本健一郎の近作──バイオモルフィックな絵画の試み(文:新畑泰秀)

福本健一郎による 「世界は一滴の」展が、東京・代官山のAKIINOUEで開催中。会期は10月3日〜11月3日

福本健一郎 静けさの輪郭 2026

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植物あるいは、森

淡彩を思わせる油絵具の層が幾重にも重なり、その上には絵具の滴り、撥ねなど様々な技法を駆使して描かれた蠢く形態が漂う絵画がアトリエの四面に並ぶ。なんらかの生命体を感じさせる画面には、バイオモルフィック──生物や植物、細胞などの有機的なかたちをモチーフにした、曲線的で流動的な抽象形態──という言葉が思い浮かぶ。今年7月下旬、酷暑の昼間に巣鴨駅にほど近い閑静な住宅の一隅にある福本健一郎のアトリエを訪ねた。作家にいざなわれて制作の場に足を踏み入れると、秋の個展に向けて制作中の絵画が視界に飛び込んできた。

福本健一郎の近作絵画の個展「世界は一滴の」が、東京・代官山のAKIINOUEで11月3日まで開催されている。昨年、東京オペラシティ アートギャラリーで開催された「Project N97 福本健一郎」展に続く、意欲的な作品が並ぶ個展だ。福本は1986年広島県生まれの画家。2014年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程を修了し、東京を拠点に活動を続けている。

福本健一郎「世界は一滴の」(AKIINOUE)会場風景

壁にかけられた作品を見て、創作の主題の起点が何か関心を持った。尋ねると福本は、植物や水、土、地衣類や苔、化石など、身近に接することのできる様々な小さなものの視覚的イメージに触発された感覚を起点に創作を始める、と答えた。それらをスケッチないしは写真に収め、その姿形をただ描写するのではなく、自らを対象へ没入させる感覚を制作の起点にしている、と。

拘りのあるという植物への関心の契機を続けて問うたとき、福本は暫くの黙考の後、幼い頃の祖父の存在について触れた。福本の祖父は菊栽培師であったと言い、3歳の頃にその菊小屋に足を踏み入れたとき、視界を埋める色彩とむせ返るような芳香が五感に刻まれ、生涯忘れられないものになったという。触発された感覚は、創作の衝動を惹き起こしたらしい。

福本健一郎「世界は一滴の」(AKIINOUE)会場風景

植物への関心は福本の霊感の源であり続け、折に触れて植物との出会いがあったようだ。学生時代は、藝大近くの上野・谷中の桜に心惹かれたことがあったという。谷中霊園は桜の名所として知られるが、中央を通る道は「さくら通り」とも呼ばれ、満開の頃は桜の隧道を彷彿とさせる。福本はこの桜の樹々の溢れんばかりの生気を体内に留めたという。2011年にシンガポールに留学したときの経験も作家にとって重要な体験となったらしい。高温多湿な熱帯性気候のかの地の都市部周辺の植物は、異常なほどに活力に溢れ、その群生、森を目前にしてその迫力に圧倒されたようだ。2020年には、沖縄本島北部で開催された「やんばるアートフェスティバル2020-2021」へ出品作家として参加。亜熱帯海洋性気候の地の植生も福本の好奇心を刺激した。現在も、福本は日常的に小石川植物園に通い、植物に大いに触発されているという。

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