ウェルビーイングは「目指すもの」ではなく「作るもの」? 「だれもが文化でつながる国際会議2026」から考える、これからの共生社会(聞き手:中島晴矢)

マルチスピーシーズ、共助、アイデンティティ。他者とともに生きる社会をどう設計するかを考える「だれもが文化でつながる国際会議2026」が、10月28日から11月1日まで東京国際フォーラムで開催される(撮影:灰咲光那)

左から社会共生を担当する岡崎未侑、アート・ディレクター森司

ウェルビーイングとは、そもそも何か? 心身ともに健康で、よりよく生きること。そんな「理想的な状態」を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、「だれもが文化でつながる国際会議2026」が指し示すのは、その先にあるものだ。

「だれもが文化でつながる国際会議」は、東京都とアーツカウンシル東京による「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー(CWT)」の一環として2022年に始まった。国際会議と国内会議を重ね、今回で5回目を迎える。第1期の集大成となる2026年のテーマは、「Moving Together―ともに生きる文化」。

カンファレンス、ネットワーキング、展示という3つの構成を通じて、他者や環境、自分自身との関係を多角的に考えていく。5年にわたる試行錯誤のなかで、このプロジェクトはいかにして現在の問いにたどり着いたのか。アート・ディレクターの森司と、アーツカウンシル東京で社会共生を担当する岡崎未侑に話を聞いた。

実践しながら問いを深める国際会議。デフリンピックからアクセシビリティの向上へ

──今年も開催される「だれもが文化でつながる国際会議」ですが、どのような経緯で立ち上がったんでしょう?

森司(以下、森) もともと東京オリンピック・パラリンピック2020の文化事業として「TURN」や「東京キャラバン」といったプロジェクトがありました。僕も担当していましたが、五輪が終わった後もレガシーとしてその知見を取り入れようと、2021年に「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー」として事業化されたんです。そして2022年に「だれもが文化でつながる国際会議」が立ち上がりました。

岡崎未侑(以下、岡崎) 始めからカンファレンス、ネットワーキング、展示を三位一体とする複合型プロジェクトとして動き出して、今回で5回目です。これまで年に1回開催してきましたが、この次は4年後の2030年開催になるので、今回が第1期がひと区切りとなります。

森司
クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョーの在り方

──このプロジェクトはどんな理念のもと進められてきたんですか?

岡崎 順番に国際会議と国内会議を開催してきましたが、文化施設や文化事業での「環境整備」「ネットワーク構築」「プログラム開発」という3つの軸に取り組んできました。たとえば環境整備として、東京都の文化施設のアクセシビリティ向上のため、情報サポートや鑑賞サポートの整備を進めています。会議を通して広くネットワークを築いていますし、様々な組織と連携するパートナープログラムも始動しました。

森 真っ先に環境整備に取りかかったのは、「東京2025デフリンピック」があったからです。デフリンピックというのは、パラリンピックから独立している、耳の聞こえないアスリートのための国際的なスポーツ競技大会のこと。2022年にデフリンピックの東京招致が決定したことと、東京都が手話言語条例を採択したことが追い風となって、東京都の文化施設のアクセシビリティを上げましょうと。

岡崎 前回の「だれもが文化でつながる国際会議2024」では、フランスのランスで2年に1度開催されている、ろう者の国際芸術祭「クランドゥイユ」でディレクターを務めるデイビッド・デ・キーザーさんに、手話で基調講演をしてもらいました。当時は戦争が始まったこともあって、国際会議のテーマは「文化と居場所」。さらに2025年の国内会議では、そこから「居場所とわたし」というタイトルが浮かび上がります。そのなかで登壇者や来場者と対話を続けていくうちに、クロージング・セッションで「未来のあたりまえ」というキーワードが出てきたり。

森 タイトルの中身も会議が進むにつれて掘り下げられ、変化していきます。僕たちのプログラムの作り方は、最初にゴールが設定されているというより、作りながら課題を見つけていく感じに近い。そうすると、イベント中に登壇者と話しながら企画の中身がどんどん進展していくんですよ。正解を提示するのじゃなく、そのときにリサーチして探し当てるみたいなところがある。

以前の会議で「デフスペース」の話がありました。デフスペースとは、聴覚以外の五感を活かして、ろう者の方が快適かつ安全に過ごせるように設計された建築や空間のことです。耳が聞こえない人のお宅には、様々な工夫が凝らしてあります。たとえば、1階と2階が吹き抜けになっていて、1階の照明をパチパチすると2階にいる人は呼ばれてることに気づくので、吹き抜けに顔を出すと手話で会話ができるわけです。

岡崎 視覚でコミュニケーションを取るための仕切り壁のない家。ろう者でコミュニケーターの和田令子さんは、自分たちが住みやすい見通しのいい家を、海外へリサーチに行って建築家と一緒に作りました。

森 そうやって自分たちにとって住みよい空間を作っていたら、それが昨今「デフスペース」と呼ばれ、その研究をする人たちも現れた。やっぱり命名よりも実践が先にあります。同じく「ウェルビーイング」も新しい概念に見えるけど、じつは昔から綿々と続いてきたものだと思うんですよ。